流氷のアザラシの赤ちゃんと地球温暖化の進行(1)2009年カナダの流氷から~動物写真家 小原玲の現地レポート。2009年3月2日(日本時間)


カナダのセントローレンス湾の流氷でタテゴトアザラシの写真を撮りだして20年になります。
10数年前までの氷は厚く、何度も押し付けあって隆起した氷でした。ところが10年ほど前から氷の様子が変わりました。赤ちゃんがボロボロの氷で産まれたり、赤ちゃんが2週間たって親離れしたころには氷が解けてなくなってしまうというような年が現われ始めました。
最初はその年だけの一時的なことだと思っていました。そのような年は私が来るようになる随分前にも1969年と1981年の記録が残っています。でも1年だけで終わり、その後はまた大量の氷がやって来ました。ところがこの10年間にはそのような氷の悪い年が、1998年、2000年、2002年、2005年、2006年、2007年と頻発しました。
このような氷が悪い年に産まれた赤ちゃんたちの何割かは、泳ぎや餌取りを覚える前に氷が無くなって溺死しているだろうと推察されています。氷の上で産まれた赤ちゃんは約2週間で母親と別れます。その後、氷の上に残されますが、広大な流氷が天敵のシャチが入って来るのを防ぎ、泳ぎが下手でも氷の上で休むことができたのです。ところがそのような氷が早く解けて消えてしまうわけです。
さて今年2009年の氷はどうだろうか?不安を胸にアザラシの赤ちゃんが産まれた流氷にヘリコプターで行って来ました。
このままだと久しぶりに15年以上前の隆起がいっぱいある広大で厚い氷が見られるかなと期待もしたのですが、2月の後半から急に暖かい日が始まりだし、急に氷は緩みだしています。最初にできた厚い氷はどんどん大西洋に流されて荒波で砕け出し、湾の中の氷も徐々にその流れにのって外に出ていこうとしているのが流氷分布図から判ります。
1年ぶりのセントローレンス湾の流氷の上をヘリで飛びました。流氷は多いです。海が出ている場所がほとんどありません。この点では10数年前のような氷です。しかし、氷の密接度があまり強くありません。氷はくっついたり離れたりを繰り替えすのですが、それによって重なりあった隆起ができます。その隆起が昔に比べると少ないし、小さいです。
なので広さはすごくあるのですが、実際の厚さはそれほどでもないと思われます。でもこの10年に頻発した氷の悪い年に比べたら全然良いです。多分今年の赤ちゃんが育ち終わるころまで流氷はもつでしょうが、その予測が裏切られた年があるのもこの10年間です。
今朝産まれたであろう出産の血が生々しく流氷に残っている赤ちゃんがいます。まだ産まれてからお母さん以外の生きものを見たことがありません。お母さんが水に入っているスキに近づいて氷に横になると、「お母さんかな?」という顔をして好奇心いっぱいの目で近寄って来て、私の匂いを嗅ごうとします。カメラの直前までやってきます。
「何年見ても可愛らしいなあ」つくづくそう思います。
こんな可愛らしい赤ちゃんと同じ流氷の上で時間を過ごせる喜び。ほんといいものです。
シーズン初日は短時間しか氷の上にいることができませんでした。このあとシーズンは2週間続きます。その様子を3回に分けて報告したいと思います。今年の流氷がこのままいい状態で赤ちゃんが大きくなるまで残ってくれていることを心から期待します。
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→新刊「流氷の伝言―アザラシの赤ちゃんが教える地球温暖化のシグナル」(教育出版)のごあんない
写真・文:小原玲 ©Rei Ohara 2009 All rights reserved



















