ついに重工業もオープンソース化=SIM-Driveプロジェクトは未来を変えるか?2010年01月25日(日本時間/ジアスニュース)

1月22日、東京・赤坂で株式会社SIM-Driveによる記者発表会が開催され、SIM-Drive電気自動車の先行開発車事業について、その詳細と参画企業が発表された。インホイールモーター方式の優位点など技術的な側面以上に、注目すべきはこのプロジェクトが「オープンソース」であること。IT関連では大きな潮流だが、およそ重工業の分野では例を見ないオープンソース化は、社会のあり方を変えるエポックとなるのか──。
株式会社SIM-Drive(http://www.sim-drive.com/)は、最高時速370キロを記録した世界最速の電気自動車(EV)である「Eliica」の開発で知られる慶應大学の清水浩教授が、過去30年間にわたって積み上げてきたEV技術を世界に早急に広めるべく昨年8月に設立した会社。先行開発車事業について賛同する企業を募ってきたが、参画企業の約30社が決定したことで今回の発表となった。
とはいっても事業の目的は自動車メーカーになることではなく、プラットフォームとしてのSIM-Drive車台を提供することでメーカー各社のEV化に寄与する点にあり、そのためのオープンソースでデファクトスタンダード化を目指すという。
それぞれの車輪の中に独立したモーターを配置するインホイールモーターの技術は、エネルギー効率の高いシステムとして高い評価を得ているが、さらに自動車のパッケージングを根底から変える概念でもある。今回の先行開発車事業に三菱自動車とともに参画した自動車メーカーのいすゞ自動車では、実績のあるバスやトラックなど大型車両の車体設計において、飛躍的に自由度が高まるとの期待があるという。
その一方で、今回の記者発表会が注目を集めた一因でもある奥山清行デザインディレクターの就任は、エンドユーザにとっての大きな魅力だ。なにしろエンツォ・フェラーリを手がけたデザイナーが「これまでのガソリン車ではエンジン中心だったデザインが、これで人間を中心にデザインすることができるようになる」と胸を張るのだから、世界一のエネルギー効率である前に、世界一のスタイリングが実現する可能性は、決して低くはない。
さて、ここまでも久しぶりに心が躍る記者発表だったが、取締役として参加している株式会社ナノオプトニクス・エナジーの藤原洋社長から、さらに興味深いプレゼンテーションが続いた。プラットフォームとして供給される車台の床に組み込んだリチウムイオンバッテリを標準化し、EV普及の要である充電とバッテリ交換をインフラ化することは必須の課題なのだが、そのインフラを太陽光発電などのスマートエネルギーと組み合せ、さらにスマートグリッド化して「情報とエネルギーの地産地省化を目指す」というコンセプトだ。
このコンセプトは、再生可能エネルギーをグリッド化して、そこに地域の大学や研究機関、医療機関から家庭までを組み込み、地産地消型情報グリッドとしても機能させるもの。つまりエネルギー利用情報の地域スマートメーターを稼働させ、再生可能エネルギーの生産情報をネットワークで共有しながら、ハブとしてのEVがその中心的な役割を担う、という壮大なヴィジョンだ。
しかし注目すべきコンセプトが提示された一方で、これまでの自動車産業が積み上げてきた安全性の担保がほぼ失われるという点についての、踏み込んだ定義はなかった。
現時点では航空機のフライ・バイ・ワイヤー制御などが、安全性が先進テクノロジーに依存する比率の高い実用例となっている。しかし4輪を独立制御するインホイールモーターでは、リミテッドスリップデフの概念もなければハブロックもできない。
従来型のメカニカルな冗長性というフェイルセーフの存在しない設計思想が、高度な安全性をどう実現していくのか──SF映画の中では、未来カーの安全は個々のノードとしてのクルマではなく、社会インフラとしてのグリッドが担保しているのが常なのだが、そんな未来が近い将来に実現するのだろうか。
完全にフラット化して車椅子が自走で乗り込めるバスから、超ロープロファイルでライトウェイトなロードスターまで、インホイールモーターのプラットフォームにクルマの多様性を拡大する可能性があるのは事実であり、そこに生まれる新しい魅力が内燃機関からのスムーズな転換を促していくのも、ヒトの心理として自然な流れになる。ヒトは必ず「気分のいい」方向へシフトするのだから──。
そんな未来像のためにも注目すべき、このSIM-Driveの先行開発車事業については、さらに取材を重ねていきたいと考えています。
(ジアスニュース/Boonie Boo)



















